■ 味とロマンの旅


青春18キップなるものがある。JR東日本が閑散月に発行するお得な乗車券である。青春とはあるが年齢には関係なく、当日ローカル列車なら乗り放題の5枚組11000円のキップである。
5枚組であることが彼等の遊び心に火をつけ、このキップで新年会をやろうと企画されたのがこの「味とロマンの旅」である。この企画はシリーズ化されて何回か実施された

◆ 冬の厳しさを知る旅
————————————————–
1992年1月19日、午前7時仙台駅に集合、集合場所はお決まりの2階ステンドグラス前。午前7時21分発、平(いわき)行きの列車に乗り込んだ彼等、4人掛けのイスに陣取り、一人があふれて隣の席に座る形で、2時間、トイレなしのローカル列車の旅がスタートした。
走りだすなり、いきなり朝食、とにかく彼等の集まる時は食べることへの執念を感じるほど、周りの乗客への配慮も恥じもなく、食事がとれる特技を持ち合わせている。16歳の当時の姿そのものである。40歳を超えた大人の行動ではない、バッグから出てきたのはなんと、大きなとうふ、それをおもむろに包丁で切り出し、食べ始めた。列車の中で見ることはない光景がそこに広がった。次は食パン、どうも社長家の自家製食パンらしい。「おいしい、おいしい」と食する彼等、これから一日食べ歩く旅のスタートとなる。
尚、出発前には全員で確認したことがあった。

列車内での心構え
1)40歳を超えている事をわきえた行動をする。
2)他の乗客に迷惑となるような言動はしない。
3)田舎者に思われないように標準語を話す。
もうすでに確認した内容とは逸脱した行動であることは誰しもがわかることである。

2時間という時間は長い、常磐線からひたすら南下するわけだから、みなれた景色でもあり、車窓から外を見るでもなく、彼等はお決まりのマージャン大会となる。但し、今回はマグネット式のマージャンパイ、手札のようなものを他人から見えないように、マグネット式のハイを貼り付けていくものである。これもお決まりのように4人掛けのイスから、負けたものがはずれ次の人へと変わる。いたって単純なゲームを飽きもせず、繰り返し行っていた。
海の見える場所も通る常磐線だが、朝のキラキラと輝く冬の太平洋に感動する一行であった。
いよいよ平駅に到着、平では次の郡山へ向かう列車まで1時間の待ち時間となる。一旦駅を出て平市内を散策、散策とはいえ、まだ朝の10時、開店してまもない「おのざき土産店」を見て回り、当然ながら、トイレも絞りだして次の2時間の備えをする。11時08分初郡山行き737D列車に乗り、また1時間30分の旅が始まった。常磐線とは違い、磐越東線は初めてとあって、今度は車窓の景色を楽しんでいる。一番の前の席を分捕り、運転席も見えるため、前方を眺めたり、夏井川渓谷沿いを走るため、のどかな景色が延々と続く、まさにローカル列車ならではの世界がひろがっていた。
郡山着12時43分、郡山駅でも次の列車まで1時間の余裕があるので、駅を出て駅前の
s商店街を歩いてみる。12時ではあるが、昼食をする気配はない。その理由は今日の最終目的があるからだ。冬の会津であったかい喜多方ラーメンを食べる。それが今日の大きな目的である。それまでは昼食もせずにそれを楽しみにしうのている彼等であった。とはいえ、列車の中でとうふやら食パンやらお菓子など食べるだけ食べ、飲むだけ飲んでいるので空腹を感じている様子もなかった。
郡山初13時34分、いよいよ喜多方へ向かう列車が出発した。磐越西線快速磐梯7号、いよいよ冬景色一色の世界、1月も下旬でもあるので、雪深い会津への期待も最高潮、しかも美味しいラーメンが食べられる。猪苗代湖を左に、右に荘厳な磐梯を見て、喜多方の街に入った。
いよいよ喜多方ラーメン、まこと食堂に入り、ラーメンをいただく。初めての喜多方ラーメン、しかも本場とあれば期待は大きい。その大きな期待と現実のギャップに、こんなはずではないと全員が目を合わせ、訴えている。
その店を出て、いやもっと美味しいラーメンなはずだと次の店にも入り、ここでもラーメンをいただく。しかし、先ほどの店となんら変わらない。
賢さを持ち合わせていたら、ここで納得するが、残念かな彼等には常識などはなく、もう一軒のれんをくぐり、もう一杯。ここでやっと喜多方ラーメンとはどこも一緒であることに気づいた彼等だった。
喜多方を後にし、七日町へ、あれだけラーメンを食べたのに、ここでは満田屋の田楽をいただく。
若くもないのに、気持ちだけは若いため、暴食としかいいようのない行動である。
北国の雪は容赦もなく、横からなぐりつけるように振り続ける。列車のライトに照らされた吹雪が雪国ならではの最高のシーンであったことは今でも脳裏に焼きついている。
さあ、いよいよ本日の最終行程、仙台に向け、またローカル列車に乗り込む。さすがに歳並みには勝てず、